若者の投票率が低い。
若者は政治に無関心だ。
若者は投票に行かない。
若者の投票率を上げよう。
第49回衆議院議員総選挙が近くなった昨今、マスメディアではこのような話題を取り上げる機会が多くなっている。
まるで若年層全体の意識が低いような言い方である。
筆者も一応は若者寄りの人間であるため、「若者が~」という論調が耳に入る度に不快な気持ちを抱いてしまう。
レッテル貼りは嫌いだ。
そこで、今回の記事を執筆した。
当記事では公表されている投票率のデータを見て、
- 本当に若者の投票率は低いのか?
- だとすれば、若者の投票率はここ最近になって低下したのか?
などを分析していこうと思う。
また、投票率が低い理由や、どうしたら投票率が上がるのかを筆者なりに考えてみた。
投票率の推移を公的なデータで確認する
投票率を確認するにあたって、総務省のHPで公開されている資料を用意した。
下のグラフと表は、昭和42年から始まり、平成29年に行われた第48回衆議院議員総選挙までの年代別投票率の推移を表したものだ。
こちらのデータを順を追って見ていこう。
年代別の投票率の比較
まずは本当に若者の投票率が低いのかを確認してみよう。
そのためには年代別の投票率を比較してみるのが良いだろう。
注目したい箇所が見やすくなるように、前述の表を少しだけ加工させてもらった。
近年の年代別投票率が並べられた表だ。
※第48回の選挙から10歳代の投票が開始されたが、過去の記録がないため現状では考慮しないこととする。
- 20歳代 33.85%
- 30歳代 44.75%
- 40歳代 53.52%
- 50歳代 63.32%
- 60歳代 72.04%
- 70歳代以上~ 60.94%
こちらのデータを見る限り、たしかに若い世代の投票率が低く、年齢を重ねるごとに投票率が高くなっている様子がうかがえる。
70歳代以上になって投票率が下がっているのは、年齢機能によるさまざまな問題で投票に行けなくなった人が増えているからだと思われる。
誠に残念だが、投票に行かない若者が多いのは事実であるようだ。
若者の投票率の推移
若者の投票率が低いことが分かったため、今度は以下の内容を分析したい。
- 現代の若者が投票に行かないのか?
- 若年層というタイプそのものに投票に行かない傾向があるのか?
そのために、若者の投票率の推移を確認する。
注目したい箇所が見やすいように、今度はグラフを少しだけ加工させてもらった。
下記画像では、20歳代の折れ線グラフに注目している。
このグラフにより、昭和44年から平成29年に至るまで、投票率が20歳代を下回る年代が存在していないことが分かった。
どうやら、若者の投票率はいつの時代でも低い傾向にあるようだ。
なぜか昭和42年だけは70歳代以上の投票率が20歳代を下回っていたようだ。もしかすると学生運動の影響を受けて、この時期は若者の投票率が上がっていたのかもしれない。しかし、学生運動に参加していた人々が投票に行っていたとは考えにくい。となると、学生運動に参加していなかった若者たちが反発的に投票意欲を高めていたと考えるべきか? しかし昭和42年の投票率は他の年代も高く、70歳代以上と60歳代の投票率だけが低かった。この傾向の正体が掴めない。当時の世相が分からないと分析は困難である。
また、日本の少子高齢化と若者の投票率に因果関係があるのかが気になって年齢別の人口割合の推移を調べてみたが、特に因果関係は見出せなかった。
気になる方は自分の目で確認してみて欲しい。
引用元:統計局ホームページ/人口推計/人口推計(2019年(令和元年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳),男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級),男女別人口‐
全体的な投票率の推移
次に気になったのは昭和42年に66%だった(20歳代の)投票率が、平成29年には33%にまで低下していることだ。
これは若者に限らず、別の年代の投票率も平成2年ごろを境にして投票率が大きく下がっている。
一応若者寄りである筆者にはこの時代を経験していないので原因が分からない。
平成2年(西暦1990年)~8年(西暦1996年)ごろに何があったのかを調べてみた。
- バブル崩壊
- 阪神淡路大震災
- 地下鉄サリン事件
代表的な出来事を見る限りは、国民の不安感の高まりがあったのではないかと推測できる。
その後、平成21年以降にも上昇傾向にあった投票率が再び大きく下がっている。
平成21年(西暦2009年)~24年(西暦2012年)ごろにあった代表的な出来事を挙げてみよう。
- 民主党政権
- 尖閣諸島中国漁船衝突事件
- 東日本大震災
偶然かは分からないが、再び大規模な自然災害が発生した時期に投票率が下がっている。
また、テロや領域侵犯のような国に降りかかる人為的な危険性もうかがえる。
不景気、政治不信、自然災害、人為的な危険性など、国民の不安感の高まりが何らかの形で作用した結果、全体的な投票率低下につながったのかもしれない。
不安感と投票率低下の間にある因果関係の仮説としては、人は生活や心に余裕がないと必要最低限以上の行動を起こせないことが理由として考えられる。
結論:若者の投票率はたしかに低い
データ分析の結果、たしかに若者の投票率は他の年代と比べて低いことが分かった。
しかし、他の年代の投票率も全体的に低下していることもまた事実であった。
年代によらない、時代性による投票率の変動も読み取れた。
データから分かった結論を簡単にまとめると以下のような内容となる。
- たしかに若者の投票率は低い
- 若者の投票率が低いのは今に始まった問題ではない
- 若者に限らずすべての年代が連動するように投票率が変動、低下している
今の若い世代が投票に行かないのではない。
いつの世も若い世代の投票率は低いのだ。
偉そうな顔をして「選挙に行きなさい」と語っているおじさんおばさんも、昔は選挙に行っていなかった可能性がある。
テレビでコメンテーターたちが「なぜ若いころの自分は投票に行かなかったのか」を真面目に語れば、若者の投票率が低い理由が多少は判明するのではないだろうか。
また、投票率の低さについて語るのであれば、若者だけをやり玉に挙げるのではなく、すべての年代の投票率が下がっている原因を調査して解決方法を探るべきだろう。
投票率が低い理由を考えて、投票率を上げる方法を考える
投票率に対する偏見のない認識を得た後は、投票率が低い理由と対策を考えてみたい。
なお、時代性で投票率が変動することについては、国民の生活や心の余裕が作用すると仮定した場合、外的要因や天災、為政によって左右されるため予防することは難しい。
よって、ここで語れるのは以下の3項目に留まる。
- すべての年代にあてはまる投票率対策
- 若者に対する投票率対策
- 投票に行くことを無意味に感じる若者がいる理由
期日前投票を理由なく行えるようにする
まずはすべての年代にあてはまる投票率対策から考えていこう。
選挙の投票は一般的に休日である人が多いであろう日曜日に行われる。
しかし、労働で疲れた人々にとって休日は大切な時間だ。
せっかくの休日を投票のためにでかけたくない。
そのように考える人がいてもおかしくはない。
むしろ真っ当な感覚と言える。
「だったら期日前投票を利用すればいいのでは?」と問われれば、たしかにその通りかもしれない。
期日前投票には理由が必要だが、実際にはきちんとした説明や証明は要らず、選択肢に丸をつけるだけで良いので気軽に投票しに行けるのが実態だ。
…とはいえ、大半の人々はルールは守るようにと育てられている。
→期日前投票には理由が必要。
→止むを得ない事情がない限りは期日前投票はできない。
→休日に投票に行くのは嫌だ。
→投票には行かない。
このように結論づけられるのは至極当然の話だと思う。
だからこそ、理由なしに期日前投票ができるように変えるべきではないだろうか?
どうせ形骸化しているルールなのだ。
暗黙のルールであるものを、正当なルールに変えるだけのこと。
真面目な気持ちのある人々が投票に行くきっかけにはなるだろう。
投票所が不便である
また、投票所の問題もある。
場合によってはこちらの方が大きな問題となっている。
投票日に投票する場合は、指定された投票所に赴かなければならない。
この投票所が非常に問題で、ブロック塀で仕切られた近所の人しか使わないような細い路地を車で行くことになったり、投票所に駐車スペースが2、3台分しかなかったりする。利便性が最悪だ。
一方、期日前投票では市役所に赴けば良いので、投票が非常に楽なのだ。
少なくとも筆者は市役所で投票できないのであれば投票には行かないと断言できる。
それぐらい投票所が不便な場所にあるのだ。
期日前投票を理由なしに行えることを正当な権利とする。
(=投票に行きやすくなる。)
このようなポイントから着手していくべきだと思う。
学校教育で学べるようにする
今度は若者に対する投票率対策を考えていこう。
学校教育では公民で選挙について学ぶ機会があるが、あれはただの形式上の仕組み説明でしかない。
任期が何年で――、ねじれ国会が――。
あれでは「学校で学んだから選挙に行こう!」とはならないだろう。
18歳が選挙権を持つようになったからには、現在の教育現場では教育体制が充実しているのかもしれない。……変わっていないかもしれないが。
もちろん、学校教育において政治に関わる内容を深く教えることができない理由も分かる。
教師や学校が特定の思想を若者たちに押し付けないようにするためだろう。
実際、ネット越しではあるが、学校で洗脳選挙活動が行われている噂は見聞する。
そのような事態や実質的な強要を避けるためには当然の処置だろう。
しかし、だからこそ若者には選挙が分からない。
ただ学生生活を送っているだけでは政治や選挙に関心を持つのは難しい。
なぜなら、【投票方法】や【どの党】【どの候補】に投票すれば良いのかが分からないからだ。
家族や友人が政治や選挙に関心を持っていれば、そこをきっかけにして学んだり考えたりする機会も持てるだろう。
逆に、自分の周囲にきっかけがないと関心を持つのは難しい。
だからこそ、学校教育という多くの人が経験する環境で、学びの機会を設けるべきだと思う。
――投票率が低いとどうなるのか?
(支持基盤のある勢力が強くなり、民意が反映されにくくなる。)
――各党が掲げている公約は?
――現在の政治情勢は?
公平な機関に資料を発行してもらい、特定の思想が関与しないように第三者の監視を付け、判断するための情報を伝えるぐらいの努力はするべきだと思う。
投票したところで若者の意見が反映されにくい社会構造
最後に、投票に行くことを無意味に感じる若者がいる理由を考えたい。
選挙ではさまざまな公約が掲げられている。
年配者のための公約。
子どものための公約。
子育て世代のための公約。
生産年齢人口のための公約。
往々にして実現可能性は考慮されていないのは遺憾である。
人々は各党・各候補が掲げる公約を見て、自分にとって理想的な公約を掲げてくれるところに入れたりする。
あるいは、保守的であるか、革新的であるか。
そういった判断基準をもとに投票先を決めたりする。
人々を年代で一括して語ることはできないが、歳を重ねるほど保守的な思想、変化を嫌う傾向はあるように思う。例えば電子マネーとか。
もしも年代による投票傾向があるのなら、これは大きな問題である。
なぜなら、今の日本は少子高齢化社会だからだ。
すべての年代の人口がおおむね均等であれば問題はなかった。
しかし、年代ごとの人口比率に偏りがあり、一票一票に同じ重みがある場合、多数派を占めている年代が有利になってしまう。
つまり、今で言えば高齢者の望む社会が形成されやすいと言うことだ。
これが投票に行かない若者を生み出す理由の1つ。
少子高齢化による、若者の意見が反映されにくい社会構造である。
この問題の解決は困難を極める。
例えば「年代ごとの人口比率に合わせて票の重みを変えたらどうか?」
このような意見があったとしよう。
しかし、年配者が自分のことだけを考えているとは限らない。
子ども世代や孫たちの未来を考えている人もいるはずだ。
もしも1票の重みの配分を変えてしまうと、年代による投票傾向に左右されない人の意見も反映されにくくなってしまう。
一人一人の意見を集めて決定する民主主義の理念が根幹にある以上、比率による軽重を変化させる考えは通じないと言わざるを得ない。
だからこそ、時代の推移による自然な人口比率の変化が起きるまで…
若者は常に己の1票の無力感を感じながら生きていくことになる。
まとめ
総務省が公開しているデータから、
- たしかに若者の投票率は低い
- 若者の投票率が低いのは今に始まった問題ではない
- 若者に限らずすべての年代が連動するように投票率が変動、低下している
という事実が読み取れた。
若者に対してアプローチを行いたくなる気持ちも分からなくはないが、投票率の低下は若者世代特有の問題ではない。
まずは上の年代の人々が自ら投票率を高めなければ、若い世代に説教を垂れてもまるで説得力が伴わないだろう。
そして、若者世代に対するアプローチとして、選挙に関するアドバイスをきちんと行うべきだろう。これがないままに投票率の向上を図るのは難しいと思う。
また、積極的な期日前投票を促すためのルール改正も行ってもらいたい。
以上で当記事はおわりです。
みなさまの投票率に関する考えの参考になれば幸いです。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。