私はほとんど映画館に行きません。頻度で言えば5年間に1回行くかどうか程度です。
しかし、今回上映されることになった新作【君たちはどう生きるか】は10年前に引退した宮﨑駿監督が手掛けたスタジオジブリ作品と言うことで、「それならば観ずにはいられない!」と思い立って映画を観て来ました。
風立ちぬ以来の宮﨑駿監督作品
私は宮﨑駿監督時代のジブリ映画が好きです。
それこそ宮﨑駿監督が最後に手掛けた作品となるはずだった【風立ちぬ】は、前述のとおり普段はまったくと言っていいほど映画館に行かない私でさえ、足を運ばなければと思ったものです。
私は風立ちぬをものすごく良い映画だったと感じました。でも、どこが良かったのかと聴かれると、正直なところ言葉に詰まります。私では言語化できないのです。
ストーリー的なところで言えば風立ちぬは王道のシナリオではありません。
王道とは大抵の物語において「立ち塞がる困難に立ち向かい、力を尽くすことでそれを突破、切なさや悲しさなどがありつつも主人公たちは多少の差はあれど幸せになる」……概ねそんな展開です。
風立ちぬはその例には当て嵌まらず、かと言って邪道であったり、奇をてらっていたりするわけでもありません。だからこそ、ストーリーを評価するのが難しい作品だと私は考えています。
ただ、関東大震災のアニメーション表現が代表的だと思いますが、現実での物理法則を無視したアニメならではの迫力や恐怖感、異常なさまをあからさまに描写する視覚的表現。あれにはかなり魅せられました。
もしも、アニメの根源的な面白さは何かと問われれば、あの実写では決して表現できないような動きでの映像表現。そして、画面越しなのに作品内の空気感さえ伝わってくるような、見た者の感性に直接訴えかける描写表現。それらに尽きると思います。
さて……前置きが長くなってしまいましたが、今回私が観てきたスタジオジブリ最新作【君たちはどう生きるか】も、風立ちぬ同様に「ああ、これぞ宮﨑駿監督が手掛ける映画だな」と感じました。非常に素晴らしいアニメ映画でした。
キービジュアルについて
まずは【君たちはどう生きるか】のキービジュアルについて。
本作【君たちはどう生きるか】はタイトルとキービジュアル以外の事前情報がまったくありませんでした。(まぁ、もともと私はそういう情報収集をしないのであまり関係ないのですが……)
(私の知る限りでは)PVもないためか大がかりな宣伝もなく、実際、私が本作のことを知ったのは本作が上映される2023年7月14日、その当日になってのことでした。
それだけ情報制限を敷いている中で、唯一の情報となるのがキービジュアルです。
下がスタジオジブリ公式のツイートで、キービジュアルが添付されています。
カヘッカヘッカヘッ pic.twitter.com/uUYHjaNMsX
— スタジオジブリ STUDIO GHIBLI (@JP_GHIBLI) July 13, 2023
私はこのキービジュアルを見て「大きな鳥の着ぐるみを着た鳥」のイラストだと思いました。
ただ、タイトル【君たちはどう生きるか】と合わせて考えると、理想の自分の振りをする自分、自分のなりたい姿に近づこうとする自分、自分を守るための殻を被った偽りの自分、それらのようなイメージを抱きました。
まったくの見当違いだったんですけどね!!
なんで私はこう素直じゃないのでしょうか。ポケ○ン映画だったら主役のポ○モンとかピ○チュウとかが描かれているように、素直に受け取ればいいものを……無駄に推理して赤っ恥をかきました。
実際、タイトルの【君たちはどう生きるか】は作品内容には合っていて、しかし決して「まったく近頃の若者は……」的な説教臭いものではありませんでした。
【君たちはどう生きるか】はぜひその目で観て欲しい
正直な話、私はこの映画を観る前は「ジャンルぐらいならばらしてもいいかな?」などと思っていたのですが、見終わった今となってはジャンルさえ教えない方がきっと楽しめると思いました。
少なくとも私はジャンルすら知らずに観に行ったからこそ、ものすごく楽しめました!
と言うかですね……何か少しでも喋ろうとすると、これから観るっていう人の楽しみを絶対に奪ってしまうため、思っていた以上に何も言えません!
もちろん、ある程度の予備知識を持って観に行っても楽しめるとは思うのです。
そこはあのジブリであり、あの宮﨑駿監督ですから、間違いないかと。
ただ、本気で楽しみたいのであれば、やはり事前情報なしで行くのが正解です! これはそういう映画です。
宮﨑駿監督作品が好きなら絶対に楽しめると思います!
個人的には天空の城ラピュタを観るときのワクワクドキドキ感に近いものを覚えたと思います。パズーが狭いところを通ったり、ツタをよじ登ったりするシーンなどの観ているだけで楽しくなってしまうような冒険活劇のようなアニメーション作画も全開ですし。
……ということで、【君たちはどう生きるか】についてネタバレなしで感想(っていいのですかね、これ?)を書きましたが、やはりネタバレありの感想や考察も書きたくなってしまいました。
世界観の話とか、展開の話とか、登場人物の心情とか。
しかし、まだ映画を観ていない人がそれを読んでしまうのは避けたいため、最近はてなブログに追加された「記事の有料販売」機能を利用してみようと思います。
それならネタバレありの感想を言いたい気持ちと、ネタバレしたくない気持ちを折半することができそうですし……ネタバレありの感想や考察は私が書きたいだけなので、誰にも読まれなくても構いませんし、ちょうど良いかと。
映画の情報が公開され始めましたので、私が書いたネタバレありの感想や考察の部分も公開しようと思います。
まだ読みたくないという方はここでブラウザバックしてください。
この先には【君たちはどう生きるか】のネタバレがあります。
- 風立ちぬ以来の宮﨑駿監督作品
- キービジュアルについて
- 【君たちはどう生きるか】はぜひその目で観て欲しい
- 登場人物
- ストーリー展開(あらすじ)
- ネタバレあり【君たちはどう生きるか】の感想
- ネタバレあり【君たちはどう生きるか】の考察
はい。と言うことで、ここから先は宮﨑駿監督最新作【君たちはどう生きるか】のネタバレ込みの感想&考察です。
ですがその前に、まずは登場人物やストーリー展開などを整理してみたいと思います。
映画を一度観ただけでの情報の書き出しなので、間違っている箇所もあると思います。ご了承ください。
登場人物
眞人(マヒト)
主人公の少年。母を失った悲しみをいつまでも払拭できずにいる。
眞人の父
戦闘機をつくっている工場の経営者でお金持ち。金持ちであることを誇りに思っている成金思考の一面もありそうだが、息子である眞人への愛情は本物。
前後の描写がないためこれは完全に憶測になるが、おそらく妻を亡くしたがゆえに良くも悪くも家族への執着が深まっている。
眞人の母
映画の冒頭に入院中の病院が火事になって死亡した。
戦時中ではあるが、燃えている場所が一ヶ所だったこと、また、多くの人が外に出ていたことから空襲ではないはず。
ナツコ
眞人の父の再婚相手で、眞人の母の妹。つまり眞人の伯母であり、同時に新しい母親でもある。眞人の父との間にできた子どもを妊娠している。
眞人を「下の世界」誘い込むための餌として謎の世界に誘拐された。
※あの謎世界に名称がないと面倒なので、当記事中では仮に「下の世界」と名付けることにしました。
キリコ
ナツコの家に仕える奉公人で、七人の小人ならぬ七人のおばちゃんの1人。戦時中の嗜好品不足の中、眞人にタバコをせびていたのはこの人。
眞人とともにナツコを探す中で、「下の世界」に渡ることになってしまった。
大叔父
大叔父とは祖父母の兄弟。つまりヒミとナツコのおじいちゃんの兄弟。ナツコの家の近くにあった塔を建造させた人で、その中には空から降って来た謎物体が収まっている。
行方不明とされていたが、実際には「下の世界」で「下の世界」を維持する(?)役目を担っていた。「下の世界」との契約によって、血縁関係にある眞人にその座(役目?)を継承したいと考えていた。
アオサギ
説明はないが、おそらく「下の世界」に連れてこられた元アオサギ(鳥)。大叔父に眞人の案内役を任されているのだが、その割になぜか眞人を怖がらせてくる。
なんだかんだで眞人と助け合う関係になり、最終的には眞人に友だち認定され、本人もまんざらではない様子。さすがキービジュアルになるだけあっていいポジションだ。
ワラワラ
栄養が溜まると上に向かって浮いていき、上の世界で命を産む、白くて丸い生物。どことなく風の谷のナウシカのこだまを想起させた。こっちは可愛いだけだが。
ペリカン
大叔父によって「下の世界」に連れてこられて、魚もろくに獲れないためワラワラを捕食して生きているペリカンたち。なぜかインコと違って身体的変化が起こっていない。
インコ
おそらくペリカン同様に大叔父によって「下の世界」に連れてこられた元セキセイインコ(鳥)たち。生者を食べたがっているが、妊娠しているナツコは食べられないらしい。眞人やヒミからすれば捕食者なので危険な相手。将軍(だったか?)がいる。
ヒミ
「下の世界」で出会った、火を操ることのできる少女。眞人の母。
ストーリー展開(あらすじ)
舞台は戦時中の日本。
物語は眞人の母が入院中の病院が燃えて、母が死んでしまったところから始まる。
それから数年後、ナツコが妊娠しているためか、疎開のためか、あるいはその両方か、ともかく理由は不明確だが眞人は母(とナツコ)の実家に父とともに移住する。
明るい父とナツコに対し、眞人はいまだに母を失った悲しみから抜け出せていない。
引っ越した先の家の近くには、そんな眞人の好奇心を誘う謎の塔があった。
しかし、曰く付きらしく奉公人たちから入らないように注意される。
学校に行ったがいじめられ(あるいは喧嘩を売られて)、取っ組み合いの喧嘩になる。
その帰り道、眞人は自分の側頭部を石でかち割る。
治療される眞人。駆けつけた父が「誰にやられた、仕返ししてやる」というのに対し、眞人は「転んだだけだ」と答える。
次に目が覚めたとき、窓から入ってきたアオサギが人間の言葉を発した。
眞人はアオサギの化け物に警戒心を抱きつつ、アオサギの目的が眞人をどこかに誘うことだと理解する。
眞人がアオサギを退治しようとする最中、ナツコがふらふらと誘われ行方不明になる。
眞人はキリコとともにナツコを助けにアオサギの誘いにのって謎の塔に入って行く。
アオサギを退けるも、ナツコを連れ戻すために地面に沈んで行く。
目覚めるとよく分からない「下の世界」に放り出されていた。
ペリカンのせいで墓をあばきそうになる(?)が謎の女性に助けられる。
助けてくれた女性についていき、ここが死者だらけの世界であること、彼女が一緒に飲み込まれたキリコであること、ワラワラやペリカンの生態などを知る。
再び現れたアオサギとともにナツコのもとへ向かう。
その途中で眞人はインコに食われそうになるがヒミに助けられる。
ヒミの手を借りてナツコに会いにいく。
その途中で元の世界に帰る方法も知る。
ナツコのもとに辿り着き、帰ろうと言う眞人、しかしナツコに拒絶される。
そして、インコたちに捕まる眞人とヒミ。
眞人は大叔父に自分の後継者になって欲しいと頼まれる。
眞人はアオサギに助けられるも、ヒミは捕まったまま。
眞人とアオサギは一緒にヒミを助けに行く。
インコに連れていかれたヒミは大叔父と会う。
そこに眞人も加わり、改めて悪意のない世界を存続するために眞人に後継を頼む。
眞人は自分は悪意を持っているから無理だとその頼みを断る。
インコ(将軍?)の横槍もあって世界が崩れ始める。
眞人は元の世界に帰ればヒミ(母)は死んでしまうと言うが、ヒミは眞人を産まなくちゃと答える。
眞人、ヒミ、ナツコ、キリコ、アオサギ(とその他鳥類)たちは「上の世界」に脱出を果たす。
友だちになったアオサギと少しの会話を交わした後にアオサギは姿を消した。
包容し合う眞人と父とナツコ。
時間は経過して戦争も終わった後、自分で歩けるようになった弟とナツコと父と眞人、四人で東京(?)に帰る。
スタッフロール。
ネタバレあり【君たちはどう生きるか】の感想
振り返りと情報の整理が済んだところで、本題の感想会に入っていきます。
昭和の空気感が感じられる作画
昭和の物や写真を見ても何の感慨も抱かない私ですが、昭和の生活感や空気感が伝わって来るようなアニメーションは最高でした。
その要因の1つはちょっとした体重移動ですら人体や物質を動かすジブリの熱意によって成立しているものだと思います。
ただ歩いているだけで見蕩れてしまう作画(あと音)はそうそうできるものではないと思います。
あれ、これって「昭和もの」じゃなかったの!?
アオサギが言葉を発したその瞬間に「え、これってファンタジー要素があるタイプの作品なの!?」と思いませんでしたか? 私は思いました!
さらにアオサギの中からおっさんが出てきたときにはキービジュアルの意味が分かると同時に、この作品の方向性がまったく読めなくなりました。
さらにそこから「下の世界」に行ったところで、「この映画ってただの昭和時代を舞台にした作品じゃないのか!」と気づかされました。
これではどこぞの天狗のお面に「判断が遅い!」と言われても仕方がありません。
ワクワクとドキドキが止まらない展開
そこからはまったく未知の領域で、いままでが昭和の世界を舞台にしていただけに観てるこっちまで眞人と同じで何が何やらまったく分からない状態になりました。
ここはどんな世界なのか、これから何が起こるのか、まったく何も分からないがゆえに先の展開も予想できず、少年のような無垢なる好奇心と緊張感がずっと持続していたように思います。
それから解放されるのはキリコさんがキリコさんであると分かったところあたり……と言いたいところですが、たぶん映画の上映が終わる瞬間までずっとだったと思います。
これってすごいことですよ?
アオサギのことが憎めなくなる
アオサギってここまでの段階では油断のならない相手、敵っていう印象が強いのですが、ここでペリカンのお墓を一緒につくることでアオサギにも共感できる心があることをようやく知ることができます。
ここから眞人のアオサギに対する態度が少しずつ柔らかくなっていくのですが、もし私が眞人の立場だったらこの後も警戒し続けると思いますので、眞人は心根の優しい少年なんだと思わされました。
凶悪インコ
なんですかあのインコたち。殺意がヤバイです。
いままでにいろいろなジブリ映画を観て来ましたが、あそこまで殺意の高い存在はなかなかいなかったと思います。
過去の作品を彷彿とさせるアニメーションの数々
【君たちはどう生きるか】の全編を通してさまざまなジブリ作品を思い出しました。
アオサギが用意したという母が溶けていく描写では「もののけ姫」のししがみさま。
アオサギの羽ばたき方は「千と千尋」の小さなカラス。
鉄骨をよじ登って行くシーンは「天空の城ラピュタ」のパズー。
各場面で見られるアニメーションの数々が、いずれも今までのスタジオジブリの積み重ねなんだなと感じられ、やはりこの人を惹きつけるアニメーション作画がジブリの魅力なんだよなぁと再認識させられました。
あ、ヒミの家でトーストを食べるシーンもそうですね。
怒涛の展開からのスタッフロール
最後クライマックスからスタッフロールが流れるまでの展開が目まぐるし過ぎて、スタッフロールを見たり音楽を聴いたり(曲名は「地球儀」だったと思います)する余裕がありませんでした。
それよりもスタッフロールが流れている間に「あれってどういうことだったんだろう?」「眞人はなぜあんなことをしたんだろう?」などと考えたいことが多すぎて、良い意味で考える暇がない大詰めでした。
これほどアクションも思考も十分に堪能できる作品って私的には滅多にお目にかかれない印象です。
ネタバレあり【君たちはどう生きるか】の考察
感想はここで終わり、続いて考察です。
ナツコはどういう心境だったのか?
助けに来てくれた眞人をナツコが「嫌い」と言って拒絶した理由。
そして眞人がナツコのことを「ナツコ母さん」と言ったところで心が変わった理由。
映画を観ているときはそれが分からなかったのですが、改めて考えてみるとそんなに難しい話でもなかったのかなと。いや、それで間違っていたら恥ずかしいのですが……。
まず、最初にナツコのもとにやってきた眞人は母の死のせいで心を閉ざしている状態に近かった。
そんな眞人に対してナツコは優しく気遣って新しい母親だと認めてもらおうと頑張っていた。
でも、眞人はナツコの気持ちに応えてくれようとはしなかったため、そんな眞人に対して無意識に煙たがるような気持ちを抱いていた。
だから母さんと言ってくれたことで拒絶を解いてくれようとしたのだと思います。
大叔父の立場ってどんなの?
「下の世界」同様、大叔父の立場もよく分かりません。
もしも大叔父が「下の世界」における神や管理者的な存在なのであれば、後継者にしたい眞人がインコたちに喰われそうになっているのを見過ごすはずがありません。
そう考えると、大叔父は世界と契約して世界の一部になっているのであって、世界の行く末を自分の好きに操作できるわけではなさそうです。
ただ、全編を通して内容をはっきりと覚えているわけではないので、本当にこれで合ってるとは思いにくいです。
「下の世界」はどのような世界なのか?
「下の世界」がどのような世界なのか、その全貌は分かりかねています。
「下の世界」は死者だらけの世界で、生きている者の方が少ないとキリコが言っていました。
だから最初は死後の世界のようなものかと思ったのですが、その割には少ないながらも魚(生者)がいましたし、死者たちは「生きている(た)ものしか食べられない」ようですし、死後の世界と言うには死者を主体とした設計がなされていません。
つまり、生きているものも存在する前提で成り立っている世界なのです。
「下の世界」でワタワタが力を蓄えると、「上の世界」で新しい命をつくる。
そしてワタワタが上の世界に行くときにみんなで遺伝子のような螺旋形をかたどっていたのは、あからさまに遺伝子情報のメタファーだと考えられます。
その情報をありのままに受け取ると、この「下の世界」とはつまるところ、「胎内」を具象化した世界なのではないでしょうか?
だからインコは「世界と同格存在」をお腹に持っている妊娠中の人間を食べることができない。
魚は口から食べて胃に入ったもので、それを栄養として取り込むことで、人間は生活して新しい命を宿すことができる。
そうだとすれば、母体の胎内という外界からの脅威にさらされない安心安全なシェルターというのが「下の世界」の本質であり、だからこそ大叔父の言っていたような「悪意にさらされない世界」なのかもしれない。
そう考えると辻褄が合うような気がします。
しかしながら、そうだとするとペリカンを連れ込んだりインコを連れ込んだりしたのは本当に意味が分からないので、何か間違っているような気もします。
眞人の物語(心情)
眞人は母を失ってから、父のように悲しみを振り切ることができていなかった。
学校に行ったときは金持ち=異物であるためいじめられ、その帰り道に眞人は自分で頭をかち割った。
そのシーンを見たときにはそうする動機が理解できなかったのだが、物語の終盤に「これはボクの悪意の象徴」みたいなことを言っていたこと、そして上映後にじっくり時間をかけて考えたことで、自分なりに動機の解釈ができた。
おそらく、眞人は父がどのような反応を示すのか知っていたのではないでしょうか?
だから自ら酷い怪我を負うことで「父にやり返してもらう」「親に告げ口もできない弱者の振りで自分をいい子に見せる」「父に心配してもらう」などの願望を満たそうとした……それが私の推測です。
そして、その後すぐにアオサギの化け物が現れたことで、マヒトの興味の対象、かつ、警戒すべき対象がアオサギに移った。
(ちなみにですが、物語に出てくるのが鳥ばかりなのは、渡り鳥=世界を渡れるというイメージの紐付けだと解釈しました。インコは渡り鳥ではないようみたいですけれど)
眞人は「下の世界」でさまざまな経験を積むことで、少しずつ成長していった。
七人のおばちゃんたちが自分を守ってくれていることを認識。
新しい命が生まれる神秘的な瞬間(ワタワタの浮上)の目撃。
敵視していた嫌なやつだけど、死者を尊ぶ心は持っていたアオサギ。
眞人は嫌な事や悪意が振りかかる世界の中にも、優しさや温かみや美しさがあることを思い出し、すべて含んだうえで、悪意もある「上の世界」で生きていくことを選んだ。(理由部分は憶測です)
火災で死ぬことが分かっていても眞人を産むために「上の世界」に行くことを選んだヒミも、その眞人の選んだ答えは間違ってないよと後押しするかたちになっていると思います。
まとめると、眞人は「胎内(母)」の象徴とも言える「下の世界」に縋らないことを選び、母の庇護がないと生きられない自分を止めて、父やおばちゃん、ナツコさんやそのお腹に宿った弟たちがいる世界を自分の足で生きることを選んだ。
それが私なりに考察した【君たちはどう生きるか】の「答え」です。