※この記事にはアフィリエイト広告が含まれています。
虚淵玄と言えば、代表作に「沙耶の唄」や「魔法少女まどか☆マギカ」があがる、ハッピーエンドが書けない脚本家・ライターとして有名です。
それに対して個人的な反対意見もありますが、今は置いておきます。
そして今回は、彼がシナリオライターを務めた
「鬼哭街」を紹介していきます。
…とは言いましても、原作は約20年前に発表されているため、今更感はあるかもしれません。
しかし、これを機に知ってくれる人が増えれば私が嬉しいので書きますね。せっかくブログをやっているのだから、自分の好きなものを布教しない理由がありません。
作品概要
鬼哭街はもともと「サイバーパンク武侠片ノベルゲーム」であり、それを小説化した文庫も出版されています。その辺は後述しますので、まずはあらすじの紹介からいきます。
あらすじ
かつては友と信じた男の裏切りにより、辱めの果てに命を奪われた自身の妹・瑞麗(ルイリー)の仇を討つため、犯罪都市・上海へと舞い戻った孔濤羅(コン・タオロー)。
一振りの倭刀と必殺の電磁発頸「紫電掌」を武器に、凶悪無比な五人の仇敵(サイボーグ武芸者)たちへの復讐劇の火蓋はついに切られた――!
ジャンルで言うと以下の4つの組み合わせですね。
- サイバーパンク
- 武侠小説
- 復讐劇
- バトルもの
広義で言うところの「SF」です。簡単に説明したかったのですが無理でした。詳しく知りたい方は→サイバーパンク - Wikipedia
中国の小説ジャンルの1つ。武術に長けて、義理を重んじる人を主人公としたもの。日本で言う任侠に近いのかもしれません。
世界観と登場人物と物語
ガイノイドと呼ばれる機械人形。
サイボーク化手術を受けた武芸者たち。
サイバネティックス技術(生物と機械の融合)が進んでいる世界。
主人公「タオロー」は、青雲幇というマフィア組織の一員だった。
しかし、信じていた友の手によって殺されかけた。
さらに、幹部たちの手により実の妹である「ルイリー」は辱めの果てに殺された。
命からがら上海に戻ったタオローは、信じられない話を聴くことになる。
なんでも、ルイリーの脳内に蓄えてあった情報信号が五等分され、件の幹部たちのもとのガイノイドに入れられているらしい。
それらからデータを取り戻して1つのガイノイドに集めることができれば、ルイリーが蘇る……かもしれない。
サイボーグの肉体を手にした武芸者たちに、タオローは生身と一刀で立ち向かう。
徒手空拳でもサイボーグを屠れる技、電磁発頸の使い手として。
作品形態
もともとは「サイバーパンク武侠片ノベルゲーム」として発売された18禁のADVゲームです。それから約10年間の時を経て、全年齢版になったリメイク版のゲームと、小説が発売されました。
2002年 | ニトロプラスから発売されたノベルアドベンチャー(R-18) |
2011年 | 全年齢版にリメイク(描写の刷新や諸々の追加)された |
2013年 | 小説版が発売(2005年に発売した2冊の小説を再編集のうえで1冊にした) |
ジャンルや経緯を知るとライトノベルのようなものだと思われるかもしれませんが、中身はがちがちにハードな文章です。漫画と同じように楽しめる内容でありながらチープさはありません。
作品の魅力
ここからが本題で、私の個人的な意見をまとめた内容です。
力強くも緻密な文章力
復讐劇というジャンルは、明確なゴールが設けられているからこそ、そこまでの道筋は一直線であることが多く、シンプルなストーリーになることが多いです。
驚きの展開になるのは復讐が終わる間際や終わった後で、それまでは読者の想像の域を出るのは至難の業です。だからこそ、シンプルなストーリーの中で飽きさせずに面白いと思わせるのが、書き手の腕の見せ所となるのです。
その点、虚淵玄の文章力やアクションシーンの描写力は一流だと思います。
例えば私の印象に最も残っている描写は、最終章となる章ノ六の開幕の文章でした。なぜここかと言われると自分でもよく分かりませんが、バトルシーンが多かったから、こういった描写が記憶に残っているのかもしれません。
死に絶えた景色の中を、渺々と風が吹き渡る。
分厚く空を覆っていた雲も、孕んだ毒素を洗いざらい流して溜飲を下げたのか、嵐の後の風に運ばれて彼方へと去り、今は澄まし顔の満月が煌々と夜を照らしている。
そんな楚々たる月華の下、鬱蒼と立ち並ぶ、ねじくれ黒ずんだ立ち枯れの木々。
過去には桃花の園であったはずの景色が今や……そんな描写です。
引っかかることなくすらすらと読める文章でありつつ、読者に伝えたいであろう景色がはっきりと脳裏に浮かびます。
「漢字が読めない!」と言った心配もありません。実際には難しい漢字には振り仮名が付いていますから。
シンプルなストーリーの奥に潜む執着心
先述したとおり、復讐劇では復讐が終わる間際や終わった後に驚愕の展開を用意していることが多いです。鬼哭街も例に漏れず、そのような構成となっています。
復讐の鬼――それまで主人公であるタオローの孤軍奮闘っぷり(妹への執着)を見てきた読者だからこそ、それ以上の執着心を持った人物が潜んでいたことに普通は気付けません。
物語の最後、信じていたはずの友との決戦の最中に、物語の裏に隠されていた真実が少しずつ明るみになっていき……
作品の最後を彩る真相であるからこそ、最も印象に残りやすく、最も評価を左右する要素でもあります。私には……かなり好みの内容でした。
執着という感情に恐怖を抱く人もいると思います。
しかし、私は執着心のような強い感情を抱けることや、抱いた人物と関係を持つことに憧れのような気持ちがあるので――虚淵玄が描いた人物たちの依存性には、どこか惹かれるものがあります。
ネタバレになってしまうので詳細な内容について語ることはできませんが……このクライマックスはそこまでの道程と併せて、実に素晴らしいものでありました。
まとめ
武侠、復讐劇、バトル、ゲーム原作――そういった要素が読者を選びます。
しかし、一度読んでみると、その判断は意味を為さなかったと分からされます。
それほどに、読者の意識を引き込んでしまう素晴らしい作品です。
テンポよく進みつつも、登場人物たちの心情を丹念に描いた本作。
この機に是非、みなさまにも新しい扉を開いていただきたいです。
媒体も文庫本なので比較的手を出しやすいと思います。
小説 ―文庫版―
挿絵としてカラーイラストが5枚(ページ)入っています。
小説 ―kindle版―
合本版は電子書籍化されていません。電子書籍なら前後編の2冊。
また、「いとうかなこ」が歌うゲーム版エンディング曲の「涙尽鈴音響」も聴いてみることをおすすめします。作品とリンクして暗い雰囲気の曲調なので、気持ちを鎮めたいときに聴くのに良いです。
以上、『虚淵玄の文章力が冴えわたる名作「鬼哭街」』でした。