SIGA BLOG

動物園から脱走したリスが、社会や人間について考えたり、小説やグラブルの記事などを執筆したりする雑記ブログです。

最近見た夢を小説にしてみた

この小説は、ある意味ノンフィクションです。

※少しだけ「ひえっ!」となる描写があります。

 

スポンサーリンク  

やり返さずには居られない

 

 僕は学校の教室で絵を描いている。暇潰しのためでも、趣味でも、部活動でもない。これは仕事だ。僕は学生であると同時に、依頼された絵を描く仕事をしているのだ。理由は聴いてくれるな。僕ですら分からないのだから。ただ、僕は仕事のために、教室で絵を描いている……それだけが事実だ。

 

 教室で絵を描いていると、当然、まわりの奴らが覗き込んでくる。注がれているのは好奇の目だ。それらには、生乾きの衣服を連想させるような温度と湿度が込もっていた。実に不愉快だ。くだらない情報は思考の外に放り出すに限る。

 

 僕は用紙に意識を傾け、鉛筆を走らせる。深い溝ができないように、力は最低限で、薄く、滑らせるように。時代錯誤なやり方かもしれないが、不思議と僕にはこれが合っていた。結局のところ、手法なんてものは数式と一緒だ。律儀に計算式を書かなくても、答えさえ導き出せればそれでいい。自分に適した方法で結果を出せるのであれば、何の問題もないじゃないか。

 

 そんなどうでも良いことを考えている間も、僕の手は動き続けていた。最初は真っ白だった紙が、みるみるうちに作品に進化していく。創造、生産、昇華……努力と苦労が形を成していく工程は、何よりも美しい。それは絶対の真理だ。しかし、せっかく真理があろうとも、僕のまわりには、それに共感できる相手がいない。なんと嘆かわしいことだろうか。そのせいで、僕は他人の顔をまともに直視できなくなったというのに。 

 

 絵の進捗に比例するように、僕の頭の中には雑念が生まれる。やはり、絵を描く場所として、学校の教室は完全に誤りだ。しかし、場所を変えようと考えても、即座にその気持ちが薄れていってしまう。本当になんだこれは? 絵の神が僕に与えた試練か? だとしたら、僕はその神を認めない。認めはしないが……なぜか逆らえない。こうなったら、早急に絵を描き終えてしまった方がいいだろう。そのためにも、ここで一旦、冷静になっておきたい。僕は席を離れ、顔を洗いに行った。

 

 僕がすっきりした気分でいられた時間は、わずか一分にも満たなかった。僕が教室に戻って来た時、僕の机のそばには消しゴムを持った誰かが立っていて、その手が僕の絵に向かって伸ばされていたからだ。僕はその人物を知っているが、名前は覚えていなかったし、今後も知る必要はない。

 

「ひいっ!?」

 

 これは彼の悲鳴だ。そして、悲鳴を上げさせたのは僕だ。僕は彼の背後に忍び寄ると、彼の頭上を経由して、肉付きの薄い目蓋を摘まみ上げたのだ。だが、その程度のことで恐がられても僕が困ってしまう。なぜなら、僕は机の上に置きっぱなしにしていた鉛筆を手に取り、その先端を、彼の眼球と目蓋の隙間に挿し込んだのだから。案の定、彼は言葉を出せなくなってしまった。

 

「……」

「大丈夫だよ。君が暴れない限りは、眼球に触れはしないから」

 

 当然ながら、彼は何の反応も示さない。頷くどころか、瞬きすらできずにいる。……僕だって、本当はこんなことをしたくはないんだ。だけど、仕方がないだろう。僕の目が節穴でなければ、彼は大罪を犯すところだったのだから。それを未遂で留めることができたのだ。その流れで、罪を告白、懺悔してもらえば、彼は一生の咎を負うことなく、今後とも平穏に生きていけるのだ。君のため、僕は心を鬼にしよう。

 

「ねえ、君は何をしようとしていたの? その手に持った消しゴムで、一体なにをするつもりだったのかな? 答えて欲しいな。口は動かせるでしょ?」

「……」

 

 彼は何の返事もしなかった。ただ、生唾を飲みこむ音だけが、僕の耳に届いていた。その様子から察するに、彼はおそらく、極度の緊張状態にあるのだろう。ここは陽気なジョークを挟んで、彼の緊張を解いてあげるべきだろう。

 

「ああ。もしかして、一発芸でも披露してくれるつもりだったのかな? 人を笑わせるのが生きがい、とか? だとしたら、どんな芸を見せてくれるんだろう? うーん、そうだなあ……例えば、人が書いた絵を水泡に帰す、とか?」

 

 僕は自身の指先に細心の注意を配ったまま、彼の顔をすうっと覗き込んだ。すると、彼の片目(僕が摘んでいない方の瞳)は見ていて面白くなるくらいに、とても大きく開かれた。

 

「ち、ちが――」

「謙遜しなくてもいいじゃないか。僕が悲しむ瞬間を皆に見せて、教室を笑顔で一杯にしたかったんだよね。人を笑顔にする仕事かあ……うん。とても良い仕事だと思うよ。もしそうだったのなら、止めた僕が悪かったよ」

「……じっ、実はそうなんだ。あはは……皆に笑いを届けたくてね。もし、気を悪くしたようなら、あや――」

「笑わせるってことならさ、子供の頃に観ていた、動物たちがお互いに仕返しし合うアニメが面白かったなあ。やられたら、それ以上のダメージでやり返す。でも、あれってコミカルに表現されていたから面白かったけど、現実でやったらどうなるんだろうね? 気になるなあ。ね、君も興味あるでしょ?」

「わ、わる、俺が悪かっ――」

「あのさ、何か勘違いしてるよね? 質問はちゃんと聴いて欲しいなあ。仕方がないから、もう一度だけ言ってあげよう。僕はね、現実での仕返し劇は、面白そうかって訊いたんだよ。今度こそ、真面目に答えて欲しいなあ」

「……お……俺には……分からない……ただ、シャレにならないこともあると思うから……傷つけ合わないことが、一番、だと思う」

 

 一旦、彼から視線を外して考え込んだ。

 

「……」

「あの、どう……だろう?」

 

 僕の見立てによれば、彼の悪行はプライドによるものではないと見える。所詮は、視野の狭さや浅はかな考えが招いた結果のようだ。反省の度合いはともかくとして、彼は懲りることのできる人間だと思う。

 

「……良かったね。どこかの誰かが仕返しを始める前に、その答えが出せてさ」

「あ、ああ。すまなかった……二度と繰り返すことのないよう、これからは気をつけるよ」

 

 僕が鉛筆を持った手を下げると、彼は二度と僕の方を見ないで、教室から飛び出して行ってしまった。どうやら、僕が行動に入った時の予想より、事は穏便に治まったようだ。

 

 それにしても、実に無意味な時間を過ごしてしまった。遅れを取り戻すためにも、さっさと絵の続きを描く作業に戻らないと。僕は、鉛筆の先に付着していた水滴をポケットティッシュで拭き取った。

 

  * * *

 

 他人に不幸をまき散らす人間。それが全体の1%にも満たなければ、世界はもっと優しかったのではないかと、そう考えてしまうことがある。悪人は極一部しかいないと思い込むには、数があまりに多すぎる。絶えず押し寄せる悪意の波の根源は、きっと、凪の心地よさを知らないのだろう。凪を知らない人間に、何かを生み出すことはできない。

 

 しかし、おかしい。どうして僕ばかりが、悪意に付け狙われる? やはり、嫉妬だろうか。自分の価値を下げないために、他人の価値を下げようとしているのだろうか。だとすれば、なんと醜い発想だ。その行いこそが、自らの価値を無くすことに他ならないと言うのに。……まあ、彼らがどれほど薄汚くなろうと、僕が気にすることはないのだが。

 

 悪意の理由はどうあれ、とにかく、僕の現状にぴったりなことわざがある。一難去ってまた一難、だ。

 

 ラーメン店の床のようなギトギトとした光沢。もしくは、甲虫を思わせるような光沢。それが、僕にちょっかいを出して来た奴の、頭髪の特徴だった。

 

「おいおい、頑張って描いてますアピールか? どれ、ちょっと見せてみろよ。上手いかどうか、俺が判断してやるからさ」

 

 僕は奴の言葉を無視した。そして、そのまま作業を進めようとしていたところ、横から伸びて来た手が、僕の向き合うべき相手を奪い取った。奴は唇を尖らせて、それを二秒ほど眺めていた。その瞳には、興味の色は存在していなかった。奴はゴミ箱に捨てるように、それを僕の机に放り投げた。僕は慌てて、その安否を確認した。折り目でも付こうものなら一大事だが、どうにか大丈夫そうだった。

 

「ふーん。やっぱ描いてるやつがダセェと、釣られて絵もダサくなっちまうんだな。あーあ、絵が可哀そうだ」

 

 その程度の発言で、僕を傷つけれると思っているのなら、大間違いだ。審美眼を持ってないやつの意見など、何の参考にもならない。幼児から意見を聴く方がまだマシだ。

 

 煽りに僕が反応を示さなかったことが、奴の苛立ちを招いたらしい。奴は、僕に食ってかかって来た。

 

「どいつもこいつも、やれ努力だ、やれ我慢だ、ってダセェことばっか言いやがる。くだらねえと思わねえか? 人生ってのはな、どうやって努力をせずに金を稼ぐか、だろ? 汗水垂らして働くなんて、臭くて堪んねえよ。見苦しくて目障りだ」

 

 自らの怠慢を正当化しようとしているのか……。部分的には、生産性の効率化という点で同意できるかもしれない。しかし、奴が言うことにそのような意味が込められているとは思えない。奴の主張は労力の否定だ。僕とは決して相容れない思想だ。気付けば、僕は口を開けていた。

 

「それは努力をできない者の言い分だよ。仮に労働をしたくないのであれば、労働をしなくてもいい環境を作り上げる努力が必要だ。それも、公序良俗に反しない範囲でね。……思ったんだけど、君は学生であることに、頑張らなくてもいい環境に、甘えているんじゃないのか?」

 

 僕がそう言い終えると、奴は僕の机に手を置いた。そして、間髪入れずに、荒立てた声音を僕にぶつけて来た。

 

「馬鹿かてめえは。努力を正当化するんじゃねえよ。まさか、頑張ったら何でもできるとか、そう思ってるんじゃねえよな? もしそうなら、てめえは現実を見てねえただのマヌケだ。言っとくがな、どれだけ頑張ったところで、できねえ奴には一生かけてもできねえんだよ。その絵だってそうだ。とても見れたもんじゃねえ。それなのにてめえは必死こきやがってよお……呆れて何も言えねえわ」

 

 饒舌に語っているのはどの口だ?  まあ、それはどうでもいい。彼には彼なりの過去や挫折があったのかもしれないけれど、それもどうでもいい。彼がどんな思想を持っていたっていい。ただし、それを人様に押し付けようとしている以上、人様から押し付けられても文句は言えないはずだ。

 

「じゃあさ、君には何ができるの?」

「……は?」

 

 僕の切り返しに、彼は思考が止まったように声を漏らした。

 

「努力をしている人を見下し、努力を否定する君には、一体なにができるのかって訊いたんだ。努力も我慢もダサいって言うくらいだから、君は勉強なんてしないんでしょ? 勉強してたら矛盾するからね。さて、もう一度だけ訊ねてみようか……努力をしない君には何ができるの?」

「てめえに俺の何が分かる?」

「何も分からないし、知る気もないよ。ただ、僕は思うんだ。努力が報われないことは沢山あるけど、努力をしなければ何も手に入らないってさ。例外もあるにはあるけど……人としての尊厳を捨て、与えられ続けるだけの乞食のような生き方、とかね。そうでもなければ、一切の努力も無しに、生きていくことはできないはずだ」

「……」

「例えば、君がアルバイトをするとき、君は仕事を覚えなくてはならない。そのためには、覚える努力が必要だ。お客さんに気を遣う努力や、間違えないようにする努力、あらゆる努力が必要だ。生存と努力は不可分。努力を一切しなくなったときに人は死ぬ。僕はそう考える」

「……」

 

 僕が話している間、彼はじっと黒板の方を見ていた。いや、正確には、黒板を見ていたのではなく、僕から目を逸らしていた。心なしか、ギトギトとした頭髪も、尖がりが丸くなったように感じた。

 

「ねえ、教えてよ。君には何があるの? 頑張る人を嘲笑う君に、怠惰で傲慢である君に、自分を見つめられない君に、どんな価値があるの?」

 

 僕は、彼の答えを待っていた。キレ散らすのか、暴力に訴えるのか、逃げるのか、あるいは、自分を見つめ直すのか……。どの答えに至るのかで、彼の本質を垣間見れると思ったからだ。例え、どのような人生を送ろうとも、芯の周りに多量の壁が構築されるだけで、おそらく、本質的な部分は何も変わらないはずだ。僕が、若干の期待を込めて待ちわびていると、彼はついに口を開いた。

 

「……気持ち悪りぃ、なんなんだお前。これ以上関わったら馬鹿が移っちまう」

 

 そう言って、奴は教室後方に向かって歩き出した。

 

 奴の答えは、僕の期待に沿うものではなかった。ほんの少し、残念だと思う気持ちもあったが、それ以上にくだらなくて、つまらない奴だった。本当に時間の無駄だった。

 

 僕は、教室を出て行く彼の背中に向かって言葉を投げつけた。

 

「君はいつまでもそのままでいてね。卒業しても、大人になっても、就職しても、いつまでも頑張ることを否定し続けてくれ。僕は、君のダサい姿なんて見たくないからさ」

 

 彼の姿が見えなくなっても、僕は最後まで言い切った。

 

 その直後、なぜか唐突に教室が暗くなった。照明が切れたとか、曇り空になったとか、そういう変化ではない。世界が一瞬にしてインクの海に沈んでしまったような感覚……無色透明な空気までもが黒色に塗りつぶされたような感覚……そんな感覚を認めた頃には、既に僕の意識は消失していた。

 

  〇
   。
 .

 

 あー、喉がからっからだ。実に気持ちの悪い目覚めだ。時計を見たかったが、すぐには体が動かなかった。

 

 なんだあの夢は? 現実性が微塵もないくせに、幻想感だってまるでなかった。結局、話のオチもなかったし。まあ、オチがある夢など見たことはないのだけど。まあ、どうせ、夢なんてすぐに忘れてしまうだろう。考えるだけ無駄なことだ。

 

 それにしても、だ。主観人物が赤の他人だったにしても、まるで自分の無自覚の悪態を見せつけられたようだ。私は無性に腹が立った。だが、これはチャンスかもしれない。強い感情と言うものは、往々にして、創作意欲の原動力に成り得るのだから。

 

 一応、忘れる前にメモしておこうか。そう考えると、体はいともたやすく起き上がった。気が変わるのがお早いことで……別にいいけどね。

 

 私はパソコンを起動して、慣れ親しんだ椅子に座った。余計なことを考えてはいけない。夢の内容をすぐに忘れてしまいかねない。メモアプリを立ち上げるまでの間、必要以上に働こうとする思考回路に首輪を嵌める私であった。

 

 

スポンサーリンク  

あとがき

 

お読みいただきありがとうございました。

 

この小説は、私が見た夢を小説化したものです。観た映像を文章に置き換える都合上、内面の描写は盛っています。ふりかけをかけるぐらいええじゃろ。あ、プロットは弄ってないです。

 

目蓋のシーンは、ちょっと過激でしたかね? まあ、私は幼い時分に、親の頭が金属バットで振り抜かれる夢を見たことがありましたので、それに比べたらマシだと思います、はい。当時は起きた瞬間に泣きましたけどね。幼児にグロテスク耐性はないです。夢、容赦なさすぎでは?

 

それにしても、どうしたらこんな中学生の妄想じみた夢を見てしまうのでしょうね。そのことについては、夢の内容をメモした後に、少し考えてみました。原因と考えられたのは、以下の3つの要素です。

  • 学校生活に対するストレス
  • 成果を出す難しさに直面している現状
  • 人の頑張りが報われない世界への反抗

それらが入り交じった結果、こんな夢を見たのかもしれません。

 

 

それと、もしかしたらですが、体操ザムライの影響もあるのかもしれません。

体操ザムライとは?

2002年~2003年頃の日本を舞台に、成績不振の体操元日本代表選手(一児のお父さん)と、その周囲の人々が抱える葛藤や心境などを描いたアニメです。アニメ好きじゃない人にもオススメできる、素晴らしいアニメです。ちなみに、オープニング曲は懐かしの『上海ハニー』で、映像のセンスにも惚れ惚れしてしまいます。

私が連想したのは、このアニメのエンディング曲です。『夢?』というタイトルの曲なのですが、歌詞がすごく良いのです……私は飽きることなく、毎週、共感しながら聴いていました。歌詞の内容をざっくりとまとめると、「夢を叶えようとしているのではない。やりたいことをやりたいだけなんだ。だから、歪めないでくれ」と言った感じです。現状がまさにそうである私には、めちゃくちゃ心に刺さりました。是非、皆さんにも聴いて欲しいです。欲を言えば、本編も観て欲しいぐらいです。

TVアニメ『体操ザムライ』エンディング・ムービー - YouTube

 

 

……このあとがき、ちょっとまとめ切れませんね。あと、以前に書いたこちら記事も、今回見た夢と何らかの形で紐づいているような気がします。

sigablog.com

 

 

なんだか非常に恥ずかしい小説(記事)を書いてしまったような気がしますが、読んだ人がどう思うかが気になって仕方がなかったので、公開に踏み切ることにしました。結果、精神的な寒気に襲われています。ザ・臆病。

 

以上、『最近見た夢を小説にしてみた』でした。